東京地方裁判所 平成11年(ワ)24693号 判決 2000年2月28日
原告
株式会社健身堂
右代表者代表取締役
【A】
原告
有限会社弥生コーポレーション
右代表者代表取締役
【B】
右両名訴訟代理人弁護士
高森浩
被告
株式会社日医研
右代表者代表取締役
【C】
右訴訟代理人弁護士
伊藤真
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、別紙標章目録記載の標章を使用してはならない。
二 被告は、その所有ないし占有する別紙標章目録記載の標章を付した商品包装を廃棄せよ。
第二事案の概要
本件は、商品の包装箱に後記標章を付してこれを販売する被告の行為が、原告らがそれぞれ有する各商標権を侵害するとして、原告らが被告に対し、右標章の使用の差止めと右標章を付した商品包装の廃棄を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告らの商標権
原告株式会社健身堂(以下「原告健身堂」という。)は、別紙商標権目録1記載の商標権(以下、「本件商標権1」といい、その登録商標を「本件登録商標1」という。)を、原告有限会社弥生コーポレーション(以下「原告弥生コーポレーション」という。)は、別紙商標権目録2記載の商標権(以下、「本件商標権2」といい、その登録商標を「本件登録商標2」という。)を有している。
2 被告の行為
被告は、別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を、被告が販売する商品(無臭性ニンニク加工食品。以下「被告商品」という。)の包装箱に付して、被告商品を販売している。
二 争点
1 被告標章は、本件各登録商標と同一又は類似といえるか。
(原告らの主張)
被告標章は、本件各登録商標と同一のもの又は類似するものである。
(被告の反論)
被告標章と本件各登録商標とは、上部の花茎の部分の太さ、鱗茎の付き方、髭状の根の有無などの点において形が異なり、また、色彩も異なる。したがって、被告標章は本件各登録商標とは類似しない。
2 被告標章は、商標として使用されているか。
(原告らの主張)
被告標章は、商標として使用されている。
(被告の反論)
被告商品は、無臭性ニンニクを原材料とする健康食品である。被告は、無臭性ニンニクの写真が印刷された被告商品の包装箱を使用している。需要者は、右包装箱の写真を見て、原材料である大粒無臭性ニンニクを撮影した写真が用いられていると認識する。したがって、被告標章は、商品の出所識別機能を有する態様で使用されていない。
3 被告は、本件商標権2の指定商品と同一又は類似の商品に被告標章を使用したか。
(原告弥生コーポレーションの主張)
被告商品の包装箱は、本件商標権2の指定商品のうち「第一六類中の紙製包装用容器、印刷物、写真」と同一又は類似である。包装箱につき被告標章を使用する行為は、本件商標権2を侵害する。
(被告の反論)
被告は、被告商品の包装箱に被告標章を付しているが、包装箱を商品として販売しているのではない。したがって、被告商品の包装箱に被告標章を使用する行為は、本件商標権2の指定商品と同一又は類似の商品に被告標章を使用するものではない。
4 被告標章の使用は、商標法二六条一項二号に該当するか。
(被告の主張)
無臭性ニンニクを原材料とする健康食品の包装箱に、無臭性ニンニクの写真を印刷することは、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法二六条一項二号に該当し、本件各商標権の効力は及ばない。
(原告らの反論)
被告の主張は争う。
5 原告健身堂の請求は、権利濫用に当たるか。
(被告の主張)
本件登録商標1は、無臭性ニンニクの写真であり、これを無臭性ニンニクを原材料とする健康食品に使用する場合には、出所識別機能を欠く。したがって、本件商標権1は、無臭性ニンニクを指定商品とする限りにおいて、無効である。被告は、被告標章を無臭性ニンニクを原材料とする健康食品の包装箱に使用しているのであるから、本件商標権1に基づく請求は、無効であることが明らかな商標権に基づく請求であり、権利の濫用である。
(原告健身堂の反論)
被告の主張は争う。
第三争点に対する判断
一 争点1(被告標章と本件各登録商標との類否)について
1 証拠(甲一、二及び乙一)によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。
本件登録商標1は、別紙商標目録1記載のとおりである。すなわち、約一〇個程度の小鱗茎からなる鱗茎、下方部分のみの花茎及び髭状の根の部分を撮影したニンニクの写真で、薄茶色で単一の彩色が施されている。
本件登録商標2は、別紙商標目録2記載のとおりである。すなわち、本件登録商標1と同一のニンニク、及びその右側に配置された約三個くらいの小振りの小鱗茎からなるニンニクとを組み合わせて撮影したニンニクの写真で、淡い単一の彩色が施されている。
被告標章は、別紙標章目録記載のとおりである。すなわち、八個からなる大粒の小鱗茎及び下方部分のみの花茎の部分を撮影したニンニクの写真であり、髭状の根はなく、花茎の先端及び小鱗茎の先端のみが鮮やかな緑色に、その他の部分は白色に、それぞれ彩色されている。
2 右認定事実を前提として、類否について検討する。
被告標章と本件登録商標1とを対比すると、双方ともニンニクを撮影した写真である点では共通するが、各小鱗茎の形状、配置、大きさ及び個数、髭状の根の有無、小鱗茎及び花茎の色彩において相違するので、被告標章は本件登録商標1と類似しない。
また、被告標章と本件登録商標2とを対比すると、双方ともニンニクを撮影した写真である点では共通するが、①前者が一つの、後者が二つのニンニクを組み合わせて配置した点で異なること、②各小鱗茎の形状、配置、大きさ及び個数、髭状の有無、小鱗茎及び花茎の色彩が異なることにおいて、相違するので、被告標章は本件登録商標2と類似しない。
二 争点2(商標的使用)について
1 証拠(乙一)によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。
被告標章は、大粒無臭性ニンニクを原材料とした健康食品である被告商品の包装箱に付されている。右包装箱は、縦、横及び高さが、順に約六センチメートル、約六センチメートル、約一一・五センチメートルの大きさの茶色地をした縦長の紙製箱である。その四つの側面には、以下の表示がある。①第一の側面には、上から順に、「タフリックスーパー」のカタカナ文字が、横書きで二段にわたり、金色茶抜きで、大きく表記され、その下部に、被告標章が表記され、さらにその下部に「大粒無臭性ニンニク」と小さく表記されている。②第二の側面には、上から順に、「品名 タフリック・スーパー」の記載がやや大きく表記され、その下部に「名称 大粒無臭性にんにく加工食品」、「原材料名 大粒無臭性ニンニク球粉末、大粒無臭性ニンニク花芽粉末」及び成分及び含量、被包材、内容量等の記載がやや小さく表記され、その下部に「総発売元 株式会社日医研」の記載等がやや大きく表記されている。③第三の側面には、第一の側面と同一の表記がされている。④ 第四の側面には、上から順に、「タフリック・スーパーの特徴」の文字がやや大きく表記され、その下部に、被告商品の特徴が小さく表記され、さらにその下部に、被告商品のカプセルの写真が表記されている。また、右包装箱の上面には、「TOUGHLIC SUPER」の欧文字が、横書きで二段にわたり、金色茶抜きで、大きく表記されている。
2 右認定した事実を前提として検討する。
右包装箱の体裁や被告商品の説明部分からすれば、被告商品の包装箱を見た者は、被告商品が無臭性ニンニクを原材料とする健康食品であると認識するのが自然であると解されること、被告商品は、実際にも、正にその説明どおりの性質、内容を有する健康食品であること、右包装箱には、「タフリック・スーパー」ないし「TOUGHLIC SUPER」の文字が、数か所にわたり大きく表示され、右が商品名であることも容易に認識されること等に照らすならば、一般需要者は、ありふれた格別特徴のないニンニクを撮影した写真である被告標章を、被告商品の原材料を表示、補足説明したものと理解するのが合理的であり、特定の商品を識別する機能、ないしその出所等を識別する機能を有する表示であると理解することはないと解される。そうすると、被告が被告商品の包装において被告標章を用いた行為は、被告標章の被告商品等の出所表示機能を有する態様での使用行為、すなわち商標としての使用行為であると解することは到底できない。
三 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)
<以下省略>